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新橋の機関車のある駅前広場は待ち合わせ場所として有名で人通りが多く、銀座の中央通りと並んでテレビのインタビュー取材が多いところだ。

新橋はサラリーマンなどの働く人への取材が多く、銀座は家族連れや女性への取材が多い。

そんな新橋の駅前広場のガード下に立ち飲み屋さんの「晩杯屋」(バンパイヤ)と言う名前の店があり、時々ぶらっと飲みに行く。とにかく安くて美味しい。

今日も仕事帰りに新橋駅で降りてホッピーを飲もうと駅構内を歩いていると、40歳くらいの均整の取れた後ろ姿の女性が前を歩いていた。

髪は栗毛色で外国人のようにも見える。
「どんな顔してるのかな?」

待ち合わせでもあるのか、機関車の方に歩く彼女が気になり追いかけてみることにした。

「この人、歩き方がほんとに綺麗だ。背筋が伸びていて頭の上下動も無く、見たこともないようなスムーズな歩き方だなあ。すごい素敵な人で何か運命的な出会いを感じるなあ」

女性は機関車の前に着くと、しげしげとその黒い鉄の塊を観察している。

「あのー、機関車お好きなんですか?」



人生初のナンパは成功し、彼女には全く不釣り合いの立ち飲みの晩杯屋に連れ込んだところ、彼女は機関車を見ていた時のように眼を丸くして店内やお客さんを観察している。彼女の容姿からしてこんな大衆立ち飲み店には来たことがなかったのだろう。


無口な人だ。変わった感じだ。あまり話さなくても僕との距離感を少しづつ縮めていける感じがする。お互い自己紹介もせず、でも楽しく一緒にいる。お酒もいける口のようで、飲んでも赤くならないし、全く変わらない。もう少し酔ってくれた方がいいのだが。




彼女は時々家に遊びに来て泊まっていくようになった。

一緒にいてもほとんど話さないけど、いつも楽しそうだ。男女の営みも何を誘っても断ることがない。こんな楽に付き合える人が世の中にいるとは驚きだ。

仕事は何をしてるのか?家はどこにあるのか?家族は?

でもそんな話はしない。聞きたいけど、なんかそんな話はどうでもいいように思うので聞かない。いや、聞いたらいけないような気もする。

まるで庭先に毎日来て遊んでる珍しい鳥に姿を見られたら二度と来なくなるようなそんな嫌な予感がする。


彼女は何者なのか?

彼女がトイレに行ったあとにすぐ僕が入ることがあった。ところが全く臭いがしない。トイレで何をしてるのだろう?


もう一つ不思議なことがある。
いつも一緒にコーラを飲むのだが、ゲップをしないのだ。そう言えばオナラも聞いたことがない。



付き合い始めて一月が経ち、僕は彼女がいったいどんな人なのか知りたくてたまらなくなった。

家から帰る時に跡を付けることにした。ほんとはストーカーみたいで嫌なのだが、もう我慢ができなかった。

家を出ると彼女はあの最初の新橋の駅の構内の時のように美しい歩き方で駅に向かい、世界一うるさくて揺れる地下鉄大江戸線のホームから電車に乗った。

気づかれないように彼女から一つ離れたドアから乗り込む。

彼女はドアの近くで吊革にもつかまらずにすくっと立っている。

電車が発車した。立っている乗客達は、皆揺れる電車に合わせて身体が後ろに引っ張られて動く。大きく動いても小刻みに動いても、皆乗客はその動きに逆らえずに全く同じように動く。

乗客の隙間から彼女を見ていると、彼女の姿に僕は思わず息を飲んだ。

なんと彼女は揺れる乗客達の同じ動きとは違い、どこにもつかまっていないのに身体が動かないのだ。

加速しようが減速しようが、その電車の動きが無いかのようにすくっと立ち続けている。

加速減速の慣性の法則に逆らっている。

「これはいったいなんなんだ!」

僕は思わず鳥肌が立った。


その時、彼女は乗客の隙間から見ている僕の方を向いた。まるで僕のいる方向がわかっていたかのように、迷うことなくこちらを見た。

僕はその瞬間に乗客の影に隠れたが見つかったかもしれない。

駅に到着し、ドアが開き乗客が乗り降りしている。

彼女が降りるかもしれないので、ドアの外を見ていたが彼女が降りた姿はなかった。まだこの車内にいると思い、見渡し探したがその姿はなく見失ってしまった。



この時を最後に彼女は家にくることもなく、連絡は途絶えてしまった。






今日も新橋で降りて晩杯屋で一人寂しくホッピーを飲んでいる。


彼女の跡を付けてしまったことを後悔しているが、きっといつかは別れる運命だったのだろうと納得している。

あの彼女のトイレの謎の無臭。コーラのあとのゲップが出ないこと。そして極めつけは電車の慣性の法則に逆らう、あのあり得ない姿。


僕は彼女は間違いなく宇宙人だと思っている。


きっと庭先に来る見たこともない美しい鳥のように、またいつか来てくれると思っている。






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槙島源太郎

作家兼発行人

年齢、住所不詳。謎に包まれるユーモア小説作家、槙島源太郎が贈る笑いの数々。

ビジネス書の作家としても活躍中。

現在まあまあ週に一度のリリースを目指して書き続けている。

夢は世界を笑いに包み、平和を取り戻す脚本家兼映画監督。