みよこは俺の隣でうちより大きな家に住んでいた。
田んぼを隔てて、歩いて玄関から5分くらいだろうか。
屋敷の周りには高い杉の木が何本も天にそびえている。
うちにも杉も桜もあるが、みよこの家には柿もどんぐりがなるブナの木なども屋敷をぐるっと囲んでいて、裏庭はちょっとした林のようだった。

そのころ、幼稚園が近くになく、保育園に俺は通っていた。みよこはたぶん小学校の2年生くらいだろうか。

保育園の先生は、名前は忘れたが、若くて可愛い先生で、もしかしたら初めて好きと言う感情を持った人かもしれない。

隣の家のみよことは、その頃は母同士が農作業の合間や休みの日などに良く行き来していて、一緒に付いて行ったり、向こうが遊びに来たりと毎週のように会っていたと思う。その頃は特に異性として意識はしていなかった。みよこより、保育園の先生が好きだったからかもしれない。




俺が小学校の一年生のある日のことだ。

父も母もいつものように農作業に出ていない時に一人で留守番をしていた。
というか、ただ、一人が楽しくて家の周りを回って歩いて、たとえば蟻の巣とか蝉の抜け殻とかを見つけるとしばらくしゃがんで見ては構っていた。

その時に玄関の方でみよこの声がした。「こんにちはー!回覧板持ってきました!」

俺は1人が楽しかったのに、みよこの声が聞こえると人が恋しかったかのように一目散に玄関まで走って行った。

「トモ君いたんだ!これ回覧板。」

俺は受け取ると何故かいつもと違う恥ずかしい気持ちになった。自分より少し歳上の女の子と二人だけになったのは初めてだったからだと思う。

「誰もいないよね?一緒に遊ぼうか?」

みよこは、家には誰もいないのはわかっていた。みよこのうちは確かおばあちゃんがいただけだと思う。そして、うちに上がってきた。子供は誰しもそうだと思うが、他人の家というのはとても興味があるものだ。俺もみよこの家に母と遊びに行った時に、かってにあちこち全ての部屋を開けて覗いて母に怒られた記憶がある。でも、それはとても子供心にワクワクすることだった。

みよこも、遊ぼう!といいながら、家に上がると俺の手を引いて、あちこちの部屋を見て回った。興味ある箱や戸棚を見つけると、開けて中を見ていた。俺より歳上なので、好奇心も強かったのだろう。

一番奥の普段は物置のようにしている部屋の扉をみよこが開けると、その好奇心はさらに強くなったようだ。今は使っていない、地球儀やスキーの板、古い茶箪笥など、俺も良く見たことのないものがぎっしり詰まっている部屋だった。

俺は何故かそこにいると親に内緒の好奇心が高まった時に時々感じる便意を催した。

「うんちしてくる!」
そう言ってトイレに駆け込み、部屋に戻って来ると、みよこも、「私もトイレ行きたい。トイレはどこ?」と言ったので連れて行った。
トイレは屋敷の一番奥にあるので、後で迷子にならないようにか、それとも古い家で怖かったのか「ここでトモ君待っててね!」と言われ、トイレの入口の軒先からぶら下がって、下から手を押し上げると水が出てくる手洗い器で水を出して遊んでいた。すると、トイレの中から「シャーッ」とみよこのオシッコをする音が聞こえてきた。
その時の俺のワクワク、ドキドキした感覚は忘れられない。

何と言えばいいのか、頭に血が昇っていて、心臓がドキドキしていたのだろうか?

みよこがポットン便所でしゃがんでオシッコする姿を想像していた。

女がしゃがんでオシッコをして、男は小便器でオシッコする。そのこと自体も不思議というか、ワクワクしながらも、誰にも聞いてはいけない秘密のことと思っていた。

しばらくすると、みよこが出てきたが、何事もなかったかのように平気な顔しながら、「オシッコの音、聞こえた?」と言った。
俺は瞬間的に聞こえたのに聞こえないと言うか、聞こえたと言うか迷った。オシッコの音は聞いていけないことなんだと思ったからかもしれない。
「少し聞こえた、、、」と確か答えた。
するとみよこは「やーだ!エッチ!」と笑いながら言った。
今、思うとみよこはわざと俺をトイレの前に立たせたのかもしれない。お互いの心にワクワクする何かが同時にあった。それは、とても気持ちの良い時間だった。しかし、それからはまた元のように部屋を物色して遊んで、みよこは帰って行った。
帰りぎわにみよこは「内緒だよ!」と言った。何が内緒なのか。部屋を見て周り、箱を開けたりしたことか?オシッコの音とかその後の短い会話のことか?


その後もみよことは同じ小学校、中学校で、良く顔を合わせたが、あの日のことは一度もお互い言わなかった。でも、学校の廊下ですれ違うとみよこは少し恥ずかしそうに笑っていて、それがみよこが卒業するまでずっと続いた。
そのみよこが恥ずかしそうに笑うのが、あの日を忘れていないと言うサインに思えて、その度に俺は胸がキュンとなった。

みよこが俺のことをどう思ってたかは分からない。

俺もみよこを嫌いではないが、廊下ですれ違った時にはワクワクドキドキするが、その後は同級生の女の子に好意を寄せていた。

今思うと、あの胸の高鳴りは女を好きになると言うことより、女の子との少しだけ性に関係する秘密の出来事を共有したからかもしれない。しかし、それがみよこ以外の女の子でもそう言う気持ちになったかどうかはわからない。

今はやっぱりみよこを好きだったのだと思う。


先日、母からみよこが大阪に住んでいて、離婚したらしいと聞いた。

俺は一年前に離婚して、東京で一人暮らしをしてる。

みよこが離婚したことを聞いて、過去の記憶が蘇ってきた。

あの時、俺はみよこを間違いなく、好きだったと思う。

みよこはどうだったろう。

母にみよこの連絡先を調べてもらって、思い切って連絡してみよう。

何故だろう、今はみよこがこの世で一番好き!と言いたい気持ちになっている。




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槙島源太郎

作家兼発行人

年齢、住所不詳。謎に包まれるユーモア小説作家、槙島源太郎が贈る笑いの数々。

ビジネス書の作家としても活躍中。

現在まあまあ週に一度のリリースを目指して書き続けている。

夢は世界を笑いに包み、平和を取り戻す脚本家兼映画監督。