青空の中へと飛ぶ最新式の電気バッテリーのセスナの操縦桿を握る倫太郎は、操縦免許を取った喜びと、隣に座る夏子の身体からほのかに香る匂い、いや、夏子の存在そのものに酔いしれていた。

こんなに幸せなことがあるだろうか?こんな美しい人が僕の愛を受け止めてくれているなんて。

それにしても、このEVのセスナは、教習で使ったエンジンのセスナとはまったく違う。室内の音がとても静かなのだ。そのせいか、エンジンセスナより滑るようなに空を飛んでいる。これはまるで、海の上で風を帆に受けて滑るヨットのようだ。

今日は、このセスナの中で夏子に愛を告白したい。「これからは結婚を前提にお付き合いしてくれ!」って言うつもりだ。

後部座席には、倫太郎の学生時代の友人二人、悦司と慎三を夏子の紹介を兼ねて乗せている。

「夏子さんは、ほんとに素敵だなあ!お前にはもったいないよ!なあ、慎三!」

「そうだよ、夏子さん、こんな男のどこがいいの?」

室内が静かだとこんなにも話が弾むとは!

その慎三の問いかけになんて答えるか?倫太郎は楽しみにしているが、夏子は中々答えない。

あれ?なんで、こんな間が開くの?まさか、俺をほんとは好きじゃないなんてことないよね!そう思い、夏子の横顔を見ると、夏子は顔を少し歪めて何かを我慢しているようだ。

もしかしたら飛行機に酔ったかもしれない。そう倫太郎は思い、夏子の代わりに答えを話そうとした。

その時だった。

「ブッ!」

夏子の方からオナラの音が聞こえた。

あっ!夏子がオナラ!まずい!あいつらの前で初対面の美しい夏子のオナラなんで聞かせられない!第一俺だって初めて聞いたよ。顔は美人だけど、オナラの音は普通だな。しかし、エンジンセスナだったらこんなことにならないのに、愛の告白するのにわざわざEVセスナにしたらこんなことになるなんて、世の中わからないもんだな。いや、セスナがどうとか考えてる場合じゃない。よし、こうなったら、俺がしたことにしよう!前の座席から聞こえたんだから、どちらがオナラをしたなんてわからない。そうだ、それがいい!

文字で書くと長いが、実際には普段とは違う凄まじい倫太郎の頭の回転で、約1秒後には、倫太郎のお尻からオナラが出た。

「ブッー!」

倫太郎は夏子のさっきのオナラより強めの音をわざと出した。

「ごめん!俺、オナラしちゃった!ごめん!なんかガス溜まっちゃって!ハッハッハツ!」

うまく夏子の恥ずかしいことを誤魔化せたと思い、夏子の顔をチラッと見ると、口は笑おうとしているが、顔全体が歪んでいる。

そして、

「ブブッ!!」

なんとも誤魔化しようもない音が聞こえてしまった。

しかし、ここで夏子だと話すわけにはいかない。

そう言えば倫太郎も少しお腹が張っていたので、オナラの供給には問題なかった。

「ブッ、ブッブッ!!!」

夏子のオナラの後を追って畳み掛けるようなオナラをした。

「悪い!悪い!なんかお腹がゴロゴロしちゃって!ハッハッハツ!」

これで大丈夫と思い夏子の横顔を見ると、顔はさらに歪み真っ赤になっている。

その時だった。夏子の脚元から

「ブリブリッ!」

ただのオナラとは違う音、そう、これは中身が出た音だ!やばい!

そう判断した倫太郎は、跡を追う決意をせざるを得なかった。

まさか、中身の臭いを彼女のせいにはできない。こうなったらやるしかない!

「ブリリッ!ブリッ!」

「やばい!ごめん!オナラだけだと思ったら中身も出たみたいだ。ごめん!」


「おい、おい!なんだよこんな美しい人の横でさ、仕方ねぇなあ!酸素マスクおろせよ!」

「それがさ、ないんだよ、このセスナには。悪いけどさ、窓開けててくれよ。夏子、ごめんな!俺なんかお腹の調子悪くて。」

「う、うん!」

夏子がかろうじて返事をしてくれた。きっと夏子の代わりにオナラと脱糞をしたことに感謝してくれてるに違いない。

「ほんとみんなごめん!緊急に飛行場に戻るわ!」


そう言って、管制官に連絡しようとした時、いつもの癖で無線のマイクではなく、スマホに触れてしまった。

すると、どこか触れ方が悪かったのか、スマホからチャイコフスキーの交響曲第四番へ短調、作品36が厳かな、そして悲壮感を感じる調べで流れてきた。

たまたまクラッシック好きの悦司が大笑いしながら、

「おいっ!これへ短調だよな!しかも、指揮者は現代最高のクソノビッチ・フォン・デルヤンだよな!笑えるっ!」

その後の下半身糞まみれの二人がどうやって着陸して、着替えたかは、悲惨過ぎて書けない。

しかし、その後倫太郎と夏子はめでたく無事結婚したことは報告しておこう。


あ、それから、二人の家庭の食卓にくさやの干物とブリとカレーは出てこないそうである。



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槙島源太郎

作家兼発行人

年齢、住所不詳。謎に包まれるユーモア小説作家、槙島源太郎が贈る笑いの数々。

ビジネス書の作家としても活躍中。

現在まあまあ週に一度のリリースを目指して書き続けている。

夢は世界を笑いに包み、平和を取り戻す脚本家兼映画監督。

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